2015年9月11日

死者を鞭打ちたくなるほどの衝撃 『家族喰い』


兵庫県尼崎市を中心に発覚した大量変死・失踪事件を地道に追いかけたルポ。

これまでにも殺人事件をあつかったルポは何冊か読んだが、この事件はとにかく人間関係が複雑に絡んでいて、読んでいても誰と誰がどういうつながりでどうなっているのか頭が混乱しそうだった。いや、実際に混乱した。

主犯とみられる角田美代子は逮捕後に拘置所内で自殺した。彼女は相手が自分より弱いか強いかを見抜く目が圧倒的に優れていた。そして弱い者には徹底的に攻撃的に、強い者にはとことんへりくだる。そうやって自らの王国を築き上げていった。

死者を鞭打つのは心苦しいものだが、この角田美代子については、死んでもなお厳しく鞭を打たれ続けなければならないだけの業がある。

安らかに眠っている場合ではないぞ、オバハン。

2015年9月10日

こころと人生


河合隼雄の講演を文書化したもの。児童期、青年期、中年期、老年期に分けて、思うところを語ってある。たった4回の講演を文書化したものなので分量は多くない。

河合の本を何冊か読んだ後では、とりたてて目につく話はなかったので、フーンと思いながら読んだ感じだが、たまにはこういう本に触れて「あぁそうだ、自分は精神科医だった」と思い出さなければいけないかな。

2015年9月8日

安保法案に興味がある人であれば立場を問わず読んでおくべき一冊 『メディア・コントロール―正義なき民主主義と国際社会』

安保法案というと、賛成派でも反対派でも、多くの人が「アメリカ」の存在を意識すると思う。ではそのアメリカが、どういう外交戦略をとり、実際にどういうことをしてきたのか、ということを真っ正面から指摘して突っ込んでいるのが本書。著者は現代における知の巨人とも言われるノーム・チョムスキー。


2001年9月11日のテロ以前は、あまり深く考えることもなくアメリカ礼賛主義であったが、その後の対テロ戦争という大義と、アフガニスタン爆撃やイラク攻撃などを見て、アメリカはちょっと危ない国なのではないかと感じ始めた。素晴らしいところがたくさんあるのは確かだと思うけれど、どうもそれだけじゃないぞ……、という警戒感。

一般人を巻き込んだテロへの報復が大義として成り立つのなら、アメリカの首都ワシントンだって他国から報復攻撃を受けるだけの充分な資格があるではないか。ベトナムを見よ、ハイチを思い出せ、アフガニスタンやニカラグアやパナマでやったことをふり返れ。というのが、これまでアメリカがやってきたことを「大義」という色眼鏡をつけずに見据えたチョムスキーの、ちょっと過激だが、確かに一理あると思わせる意見。

今のところ、俺は安保法案に対して消極的賛成派だが、本書は賛成か反対かに関わらず、安保法案に興味がある人であれば立場を問わず読んでおくべき一冊だろう。平和憲法云々の議論は置いといて、アメリカと超親密な蜜月関係を築いて保つことが本当に良いことなのかどうか、考えさせられること請け合いである。

2015年9月4日

邪悪、とにかく邪悪、ひたすら邪悪。その邪悪さに怖くなる 『模倣犯』



面白い本を読むという快感を長時間にわたって与えてくれる本。

多くの登場人物の背景を細部まで描くところが宮部みゆきらしく、そこが読者の好みを分けるかもしれない。小説の奥行きはぐっと深まるのだが、ストーリーのスピーディな展開を期待する人にはもどかしいだろう。

殺人には加害者と被害者がいるだけでなく、加害者にも被害者にも、家族や恋人や友人がいる。そして、そういう人たちで織りなしている社会という布地の1ヶ所が殺人で破れると、その周りが次々とほつれていく。本書ではそういう「ほつれ」の残酷さや切なさが大きなテーマで、だからこそ「こんな脇役についてもここまで背景・細部を描写するか」と思えるほどに描きこまれていて、それが実際に活きている。

犯人の底なしの邪悪さには怖気を感じるほどである。小説とはいえ、よくもまぁこれほどグロテスクな内面を持つ人間を描き切ったものだと感服する。

ストーリーは充分にハイレベルで面白いのだが、最後が若干大味になった感がある。宮部みゆきの本には、時々こういう「突然の来客で部屋を慌てて片付けた」ようなラストのものがある。そんなところもひっくるめて、宮部みゆきの魅力、かな?

2015年9月2日

チェックリストのハウツー本ではなく、どうやればあらゆる分野でのミスを減らせるかがテーマ 『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』


外科医の失敗談から話が始まり、第二次大戦の爆撃機の事故とチェックリスト、現代の航空機や高層ビルの建築法とチェックリスト、災害、料理、投資とチェックリスト、といった話題を、非常に興味深く分かりやすく示してくれる。そして最後は外科手術とチェックリスト。

この本はチェックリストのハウツー本ではない。あくまでも、どうやればあらゆる分野でミスを減らせるかについて「チェックリストを中心にして」語ってあるものだ。原題は『The Checklist Manifesto:How to Get Things Right』であり、日本語タイトルの『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』で思い浮かべた内容とは大幅に違う。

語り口は平易で、中身が深い。こういう本こそ素晴らしいと思うし、多くの人に読んでみてもらいたい。読んだうえで、チェックリストを使うかどうかはどちらでも良い。単純に、読み物として面白いのでお勧めである。

ところで、「チェックリスト」という単語をこんな短期間でここまでたくさん目にしたのは生まれて初めてだし、「チェックリスト」をこんなにたくさん書いたのも初めてだ(ここまででタイトルと英語を含めて13回)。

ちなみに著者は、『医師は最善を尽くしているか― 医療現場の常識を変えた11のエピソード』のガワンデ先生。