2012年2月19日

学生時代の小児科実習で、先生が激怒してみせた話

学生時代、小児科の実習でロールプレイをやった。指導のA先生が遺伝病の専門で、設定は「ダウン症の子を持つ父母が遺伝相談に来て、医師がそれに対応する。父母らは社員が十数名いる会社を営んでおり、いずれ息子に継がせたいと考えている」というもの。父親役にA先生がなり、母親役に実習班の女子、俺が医師役になってしまった。

いざロールプレイが始まってみると、このA先生がとにかく迫真の演技。
A先生 「うちの息子は治りますか!?」
俺 「いえ、先天性の異常ですから……」
「じゃ、普通高校には行けますか!?」
「正直なところ、なんとも言えません」
「会社を継がせたいんですよ!! できますよね!!」
「今後をみていかないと分かりませんが、楽観的には考えられません」
「原因は!? 原因はなんなんですか!?」
「それも分かりません……」
「はぁ!? じゃ、次の子どもに継がせれば……、次は大丈夫ですか!?」
「……、お父さんとお母さんの染色体検査をしても良いですか?」
「かまいませんよ、それで分かるなら。分かりますか?」
「なんとも言えません」
「……、それじゃ、検査してまた来月来ます」

と、こんな感じでいったん休憩。分かりませんを連発せざるを得なかった自分にちょっと落胆。勉強不足なのかなぁ……。

そこで、A先生から資料が配られた。染色体検査の結果で、それについて十五分ほど調べて第2セッション開始。染色体異常がどんなものだったか忘れたが、記憶を頼りに調べてみると、母親がロバートソン転座を持っているといった設定だった気がする。これは二番目の子どもにも染色体異常が起こるかもしれないというものだ。

A先生「で、原因は分かりましたか!?」
俺「はい……、お母さんの染色体が特殊なタイプだと分かりました」
「……」 (母親役をジロリとにらむ)
母親役の学生「先生、私のせいですか?」
俺「いえ、誰のせいということはありません」
母「でも、私の染色体に異常があったんですよね?」
俺「はい」
A「次の子どもは大丈夫なんですか?」
俺「実は、このタイプは次のお子さんも先天性の異常をもつ可能性があります」
A「絶対ですか!?」
俺「いえ、絶対ではありません」
A「どうすればいいんですか!?」
俺「……、一緒に考えていくしかありません」
A「……、そうですか……、先生、お願いします」

こうしてロールプレイが終了。背中も脇も汗ぐっしょり。

A先生の評価はけっこう良かった。分からないものは正直に「分かりません」というのが大事で、そこで下手に誤魔化したら、絶対に信用されなくなりますよ、ということだった。A先生は言う。
「先天性の病気は、原因が分からないこともたくさんある。僕だって、何から何まで知っているわけじゃない。その日は話だけ聞いて、分からないから調べておきますって答えることが多いんだよ」

あとで知ったのだが、第2セッションまで進んだ班は少なかったらしい。5年生での実習で、授業での勉強も一通り終えており、知識のないことが罪だという感じる時期だったのかもしれない。だから、知らないとも分からないとも言えず、A先生が演じる父親の信用を得られなかったようだ。また、実習という気持ちが抜けきらず、ロールプレイで演技する気恥ずかしさから、A先生の鬼気迫る質問に気圧されて、ちょっと困った笑顔になった学生もいたそうだ。これに対してA先生は、
「そんなにおかしいですか!? うちの息子のことは、笑うようなことですか!?」
と怒鳴り散らし、そのまま部屋から出て行ったらしい。そして戻ってきて、
「実際の相談の場では、こういうことになりますよ」
穏やかに、しかしピシャリと言ったそうだ。

いま思えば、俺が患者や家族に自信を持って「分かりません」と言い切るのは、この時のロールプレイでの経験が影響しているのかもしれない。

4 件のコメント:

  1. 大学にいるとき、4年生くらいにチュートリアルする機会があって、救急外来になぞの発熱で子供をつれてきたクレーマー父と、その父に説明しないといけない医師という、子芝居をしてみました。する方は結構面白かったですが、4年生の何かの勉強になったのかはなぞです。早く終わったので評判はよかったですよw

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  2. ブログのサブタイトルが変わってるww

    ほぼ毎日更新って……。
    ネタの引き出し多いですねー。尊敬します(笑)

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  3. >たにおか
    俺も学生に教えてみたいなぁ。
    なんだか楽しそう!!

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  4. >あー太
    まだ公開していないのが200くらいあるんだよねぇ。
    さらに普段からちょこちょこ書いているから減らない……。

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