全11章からなり、それぞれのタイトルは以下のとおりである。
脳血管障害
認知症
てんかん
多発性硬化症
パーキンソン病
筋萎縮性側索硬化症(ALS)
ギラン・バレー症候群
重症筋無力症
睡眠
脊髄疾患
「器質的疾患でない」疾患について
診断基準や治療ガイドラインについては割愛と大胆な省略がなされているので、まったくの初学者は読んでも分からないことが多いかもしれない。ただし、著者である河合先生の臨床哲学はビシビシと伝わってくる。特に筋萎縮性側索硬化症(ALS)の章では、胸が熱くなり、魂が揺さぶられるような感覚を味わった。
「ALSには治療法がなく、徐々に衰弱していくのを見守ることしかできないものだ」という誤解がある。実際、俺自身もそれに近い印象を持っていた。これに対して、河合先生はこう語る。
「有効な治療法が見つかっていません」というのは誤りです。治療法は選択肢としてはあるのです。ですから正確には“治癒をさせられない疾患”というべきなのです。では、その「治療法」とは何かというと、PEG(経皮的内視鏡下胃瘻造設術)とNIV(非侵襲的換気療法)である。
何だ、対症療法、延命療法じゃないか?という人もいるかと思いますが、はい、正直、そう思いました。そして、これに続く文章が、頭をガツンと殴られるような指導的文章であった。
そうではありません。PEGもNIVも生存期間を有意に延長する明らかなデータが出ています。栄養状態を改善すること、呼吸筋に休息を与えることで予後が改善すると考えられています。意識障害が生じない疾患ですので、PEGやNIVで生命予後が延長することは非常に大きな意味があります。「こんなの当たり前じゃないか。この文章に衝撃を受けるお前が不勉強だし、医の倫理が身についていないのだ」とお怒りになる先生もいるだろう。でも、この「当たり前の感覚」って、ときどき見失いません? 特にALSという「治療できない」(という誤解のある)難病を実際に診療していると、そんな「感覚迷子」みたいな状態になりません? 俺は精神科医として、過去に1例だけALSの人の不眠を診療したきりで、その後はALSについては各媒体を通じて知るだけだったけれど、どうやらこの感覚迷子に陥っていたようだ。
そして、河合先生はこう断じる。
PEGとNIVの適応は慎重に? 冗談じゃない熱いっ!!
終末期の疾患で意識を失い自ら生命の選択ができなくなった患者さんにPEGを施し延命させることと、ALSの患者さんに早めにPEGを施し生命予後を改善させることは意味合いが異なります。また、河合先生も書いていらっしゃるように、PEGをしたら食べられなくなるわけではないし、PEGをしても後に要らないと思えば抜去だってできる。
これらの治療法は生命予後を改善するので、対症療法と考えるのは不適切で、れっきとした治療として分類されるべきです。ALSについて、自分の中でパラダイムシフトのようなものが起こった瞬間であった。
さて、さらに河合先生の名言が続出する。特に最終章『「器質的疾患でない」疾患について』は、精神科医として「よくぞ言ってくださいました!!」と拍手喝采したくなるような内容であった。河合語録を引用していく。
“心因性”疾患を知らずして、「器質的でない」というなかれ
「器質的疾患でない」というならば、ほかの医師に理路整然と説明できるか?
「器質的疾患でない」患者さんの説明には、むしろ時間をとる!
身体表現性障害の正しい対処を知らずに、一人前などと片腹痛いそして、究極の名言がこれ。
精神科が「器質的疾患が疑われる」といってきたときは襟をただせ河合先生には、今後とも胸熱書籍を出版していただきたい。心からそう思った。
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