2018年9月10日

うつをみたら、アルコール問題を疑え! 『アルコールとうつ・自殺 「死のトライアングル」を防ぐために』


アルコールと自殺に関する薄い本。値段も手ごろなわりに、統計もしっかり載っているので、ある程度の読書力のある人であれば当事者、家族、医療者のいずれにとっても有用だろう。

印象的だったところを紹介していく。

アルコール問題が認められた自殺者の特徴として、「道に迷ったときに、人に道を尋ねることができない」人たち、というのがある。これを読んで、ギクーッ、となった男性は多いんじゃなかろうか。たしかに道は尋ねたくない……。

さて、日本における男性社会の慣習(?)で、悩んでいる友人や同僚がいたら「晩飯でも行くか」「ちょっと飲みに行くか」というのがある。著者の松本先生はこの慣習を修正して、
悩んでいる同僚がいたら一緒に晩飯ではなくランチを
と勧めている。なるほど。でも、俺は人と一緒にしらふでご飯を食べるのが苦手で、似たような人も多いのではなかろうか……。とはいえ、こんな話を読むと、松本先生の勧めに従いたくもなる。
会社の同僚で最近表情がさえず、元気のない奴がいた。仕事もあまり手がつかない感じだ。それで、少し話を聞いて元気づけようと思い、「今夜、一緒に晩飯を食わないか?」と誘った。一緒に酒を酌み交わしながら話していると、その同僚も酒がまわって少し元気づいたのか、ふだん会社で話さない家族の話や、学生時代の話などをしてくれた。二人で意気投合して、二次会でカラオケに行こうという話になり、深夜まで大いに歌い、盛り上がった。そして、最後は笑顔で別れたはずなのに、翌朝未明に死なれてしまった……。
アルコールは一時的には気分を持ち上げてくれるが、数時間後には以前にもまして気分が悪化し、衝動的で自己破壊的な行動が起こりやすくなると言われる。その端的なケースだろう。
「追いつめられたときに、飲みながら物を考えるな!」
アルコールは二次的にうつ状態を引き起こすし、すでにうつ病の人であれば、その症状や経過を悪化させる。だから、治療中は原則として禁酒である。が、しかし、実際の診療では酒を飲みながら治療している人は多い。せめて治療中だけでも断酒を、と勧めても、いまのところ上手くいったためしがない。臨床技術の精進が必要だし、工夫の余地がまだまだありそうだ。
酒は2合まで!
この根拠は「1日あたり日本酒換算で2合半以上飲酒する人では自殺リスクが高くなる」というもの。各学会が低リスク飲酒として提示しているのは「1日1合まで」。しかし、酒好きな人たちにとってはやや厳しすぎて実現性に欠ける。そこで松本先生は「自殺リスクを高めない飲酒量」として日本酒2合までを提案している。普通の缶ビールなら350mlを3本、ワインならグラス3杯半、ウイスキーならダブルで2杯。愛飲家のみなさん、これならどうだろう。

最後に、医療者向けの言葉。医師免許とりたての研修医は「女性をみたら妊娠と思え!」と口酸っぱく言われる。それと似たことを、すべての医療者の頭に入れておいて欲しい。

うつをみたら、アルコール問題を疑え!

2018年9月7日

高齢者に「言わずもがなの心配」を言葉にして差し上げること

海釣りが趣味という高齢男性(単身)の診察で、毎回のように、
「この病院でも毎年、何人かは転落事故で運ばれますよ。釣りのときには、くれぐれも気をつけてくださいね」
と声をかけていた。男性は、そのたび嬉しそうに「おうおう、大丈夫」と笑顔で頷かれた。

こういうのは「言わずもがなの心配」だろう。

我が身を振り返ると、43歳の俺は、65歳の母から「風邪ひかないように」「ストレスためないように」と言わずもがなの心配をされる。そのいっぽうで、6歳の長女や4歳の次女に「落ちるよ」「危ないよ」「暑いよ」「寒いよ」と言わずもがなの心配をする。

言わずもがなの心配を、「される」、「する」。

いまの俺は、その両方を体験する立場にいる。これはきっと幸せなことなのだ。
だがいずれ、母親がいなくなる。そうなれば、「される」は激減する。

「言わずもがなの心配」は、大人になるにつれてされなくなるものだ。それが単身者や夫婦二人だけで生活している人たちならなおさらだろう。だから、月一回の診察でされる「言わずもがなの心配」が、嬉しく感じられるのかもしれない。

「言わずもがなの心配をされること」には、子ども時代や若かりし日に親からかけてもらった言葉を思い出させる「ノスタルジアや照れくささを伴う嬉しさと癒やし」があるのではなかろうか。

2018年9月6日

シンプルでコンパクトにまとまった負の科学にまつわる5章 『闇に魅入られた科学者たち 人体実験は何を生んだのか』


2時間くらいで読み終えられそうな文章量のわりには、1620円と値段が高い。それから、副題の「人体実験は何を生んだのか」がちょっと煽りぎみかなという印象。「何を生んだのか」という問いに答えるほどの事実や考察が述べられているわけではない。

面白くなかったわけではなく、むしろ楽しい読書ではあった。シンプル、コンパクトにまとまっていて読みやすかった。各章のタイトルは以下のとおり。

第1章 切り裂きハンター 死のコレクション
外科医・解剖学者ジョン・ハンター

第2章 “いのち"の優劣 ナチス 知られざる科学者
人類遺伝学者オトマール・フォン・フェアシュアー

第3章 脳を切る 悪魔の手術ロボトミー
精神科医ウォルター・フリーマン

第4章 汚れた金メダル 国家ドーピング計画
医師 マンフレッド・ヒョップナー

第5章 人が悪魔に変わる時 史上最悪の心理学実験
社会心理学者フィリップ・ジンバルドー

2018年9月4日

プロ野球で言えば下位打線にあたる新選組隊士たちの物語 『地虫鳴く』


多くの新選組関係の小説で主役級として扱われるのは、近藤勇、土方歳三、沖田総司、斉藤一、永倉新八あたりだろうか。本書では、たいていの本で脇役や憎まれ役としてとして扱われる隊士たちが主軸となっている。プロ野球で言えば下位打線。クリーンナップ打線には組み入れられないものの、それぞれに大切な役目があり、しかし外からは目立たない。そんな彼らの鬱憤や苦悩、ささやかな喜び、悔しさ、希望と挫折、そして死が、痛く切なく描かれている。

新選組が好きな人は、ぜひ読んでおくべき一冊。

2018年9月3日

「何かを一緒にする人は、他にもいる。ただ、一緒に何もしない、という人は、他に誰もいない」 医師として、夫として、父として、息子として、一人の人間として、死について考えさせられる 『死にゆく患者(ひと)と、どう話すか』


國頭英夫先生(里見清一のペンネームのほうが有名か?)による看護学生のゼミをまとめたもの。とても濃い内容でありながら、國頭先生の軽口が冴えわたり、ちょいちょい吹き出さずにはいられなかった。こんな面白くて深い授業を受けられた看護学生は幸せだ。

中でも印象的だったのは、乳がんで妻を失った医師の言葉。
「何かを一緒にする人は、他にもいる。ただ、一緒に何もしない、という人は、他に誰もいない」
ハッとするような名文だ。ここで我が家のノロケというわけでもないが、たしかに「一緒に何もしない」という人を考えると、妻以外にいないのである。きっと妻にとっての俺もそうだと思う、思いたい。

本書の中心はがん患者についてだが、精神科医でも病院勤務である以上は看取りの役目を負うことがある。そういうとき、本人や家族に対してどういう話ができるのか、どんな姿勢でいるべきなのか。そんなことをたくさん考えさせられる、非常に素晴らしい本だった。