2018年6月8日

50人以上の犠牲者を出した連続殺人事件を綿密に描いた、とてもスリリングでおぞましい犯罪ノンフィクション 『子供たちは森に消えた』


1980年から1990年ころにかけて起きたレソポロサ殺人事件を緻密に描いた秀逸な犯罪ノンフィクション。

沈滞した空気の漂うソ連社会にあって、ミハイル・フェチソフ捜査部長とヴィクトル・ブラコフ捜査官の熱心さと真摯さ失わない姿にはひたすら感心した。ところが、それだけ必死に捜査しても犯人が捕まらない。これほどの捜査網をくぐり抜けられるのは、犯人が「捜査する側の人間」だからではないのか。そんな疑念もわいてきて、二人はだんだん神経症的になってしまう。
フェチソフはときどき、自分が悪夢のなかを生きているのではないかという気がした。毎晩のように夜中に起き上がって外に出かけ、人を殺しておきながら、家に帰って眠りに落ち、朝になると何も憶えていないのではないかという気がするのだ。
フェチソフはそのことをブラコフにだけ打ち明けた。
「なあ、ヴィクトル」ある日、フェチソフはひそやかに言った。「今度の一連の殺しは、われわれがやっているんじゃないかって思うことがないか? きみとわたしでだ」
「わたしもついそんな気がしてしまうんです」ブラコフは答えた。
犯人逮捕後、裁判で認められた殺人件数は52件だが、実際にはもっと多いかもしれないというから驚きだ。しかもこの犯人、ただ殺すのではなく、かなり痛めつけ、血を舐め、舌や唇や乳首を噛み切り、少年の陰嚢を切り裂いて睾丸を口にふくむなど、とにかくサディストっぷりがハンパない。読んでいて、うーっ、気持ち悪い……、となることも何度かあった。

とはいえ、ノンフィクションとしての構成や描写が巧みで、しかも翻訳が素晴らしく、ぐいぐいと読み進めることができた。犯人の名前は知らずに読むほうが、若干のミステリぽさも味わえると思う。

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