2020年6月22日

ブログ移転? のお報せ

文章活動をnoteに移行してみました。

こちらでは主にエッセイを。 https://note.com/booklover_md

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2020年5月22日

内容は悪くないが、著者の対人援助職に対する陳腐な発想が鼻につく 『チャイルド・プア 社会を蝕む子どもの貧困』


内容は悪くないが、著者の対人援助職に対する陳腐な発想が鼻につく。
スクールソーシャルワーカーによって救われた子どもが、自らスクールソーシャルワーカーになって、子どもたちを救う。とても理想的なかたちだと思った。
これはいかにも素人的発想で、燃え尽きる人に典型的なパターンでもある。

当事者がこういう発想になるのは仕方ない。だが、取材者がこれを「理想的なかたち」と書いてしまうのは、はっきり言って対人援助職というものをなめている。

溺れたことのある人がライフガードになるのが理想的なかたちか?
犯罪被害者が警察官や検察官になるのが理想的なかたちか?

確かに、そういう経緯で対人援助職につき、かなりうまくやれている人もいるだろう。

しかし、それは経緯が「理想的なかたち」だからではない。
その人の能力や努力の賜物なのだ。

スクールソーシャルワーカーが、厚待遇で社会的立場も高い仕事なら、ある意味「理想的なかたち」とは言えるかもしれない。

しかし、実際はどうだろう?
賃金の低さや雇用の不安定さによって、なり手が少ないのが現状だ。あるスクールソーシャルワーカーに聞いたところでは、時給は1500円ほど。雇用条件もフルタイムで働ければいい方で、週に3日などと制限されている場合も多い。
1日中、子どもとメールや電話で連絡を取り合い、必要があれば夜中でもかけつける、非常にハードな仕事であるにもかかわらず、報酬は少ないのだ。
著者は、取材を通して、こうしたことを知っているはずなのだ。

それなのに、過酷な環境で育った子を救われ、その子が成長して同じ境遇の子を救う仕事(しかも現状の待遇条件で)につくのを「理想的」と言うのは、「やりがい搾取」を肯定しているようにも読める。

最後の最後、著者の援助職への陳腐な思い込みがダメ押しのように書かれる。
第6章の裕子さん(仮名)は、志望していた大学に無事合格し、スクールソーシャルワーカーになる夢を追いかけて福祉の勉強に励んでいる。彼女ならきっと、子どもの痛みが分かる素敵なワーカーになるだろう。

改めて書くが、内容は決して悪くない。
しかし、著者は子どもの貧困の取材と同時に、対人援助職についての理解も深めていくべきだろう。

読む人に勇気を与える素晴らしい言葉にあふれた一冊 『顔ニモマケズ どんな「見た目」でも幸せになれることを証明した9人の物語』


顔の変形など、顔面に症状を負った人たちへのインタビュー集。いずれも読み足りないほどにあっさりした短いインタビューだが、中身は非常に濃い。

2歳で片目摘出した男性への問い。
普通の顔を選べるなら?
もし、目のことが僕のコンプレックスになっていて、そのコンプレックスと根性が比例するとしたら、目の症状がないことは、すごく怖いです。僕のエネルギーは失われた左目らか生まれていると思うので。
顔に血管腫のある男性の言葉。
顔の症状があることで良いことがあるとしたら、それは「全ての言い訳にできる」ということかもしれません。人生に起きるどんな苦しいことや辛いことも、全部顔のせいにできてしまう。でも、「変えられないこと」のせいにしたら、それこそ、人生は変わらない。
トリーチャーコリンズ症候群で顔が変形している男性は語る。
もし面接をした人が、僕の外見に問題があるから不採用だと考えたとしても、それは「相手の問題」であって、変えることはできません。それよりも、「自分の問題は何か?」ということをいつも考えていました。自分で変えられる部分を見つけて変えていこうと。

他にも素晴らしい言葉があふれていて、どれも人に勇気を与えるものだ。

見た目問題に限らず、人生に悩みを抱える人にぜひ一読してほしい一冊。

2020年2月14日

支援者は一読しておいて損なし! 『「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか』


多くの著者による小論集。自分に必要な部分を抜き読み。

まずは田代まさしさん逮捕で話題になっている薬物依存症に関して、さすがの松本俊彦先生。
薬物依存症者からの回復に必要なのは、安心して「やりたい」「やってしまった」「やめられない」と言える場所、そう言っても誰も悲しげな顔をせず、不機嫌にもならない安全な場所
(薬物の)再使用によって最も失望しているのは、周囲の誰よりも薬物依存症者自身である
罰の痛みによって人を薬物依存症から回復させることはできない。
そして、依存症治療において最も重要なのは「治療継続性」であると説く。依存症からの回復率や断薬継続率に影響を与えるのは、どのような治療法を採用したかではなく、どれくらい長く治療を継続したかであり、仮に薬物を使いながらの参加であっても、治療中断せずに継続した人のほうが、長期的な治療転帰は良好だったという。

それから、別の著者による「自殺について」。

自殺発生メカニズムを大まかに以下のように解説してあった。

1.獲得された自殺の潜在能力(痛みや恐怖への慣れ)
2.所属感の減弱(孤独感、孤立感。あくまで本人の主観で、はたから見た「友だち多い」ではない)
3.負担感の知覚(自分が誰かの負担になっているのではないか)

もしも、否定的認知を持つ人の味方になろうとするのであれば、まずは当事者の変化がなくても関係を続けられる方法を考えるべきである。決して、その人の考え方や行動を修正しようと焦らない。「病気の有無にかかわらず、変化を強く求める相手とは、親密な関係を築けないものだ」という指摘には大いに頷けた。

また、「辛い気持ちを『死にたい』の一言で済ませない」というのも深く同意する。相談される側としても、「死にたい」よりは「悲しい」「寂しい」といった言葉で表現されるほうが相談に乗りやすい。「死にたい」と言われると、忌避感を抱くか、逆に過保護的になるかに陥ってしまうから。治療者・援助者は、「モノクロの『死にたい』という言葉」にきちんと色を付けていく練習を支援していくべし。

それからリスカやODについて。
中高生の1割が自傷行為を経験しているにもかかわらず、保健室で把握されているのはその3分の1程度だという。ほとんどの自傷行為は、誰にも知られることのない一人きりの空間で行なわれているのだ。
これらの「行為」に依存し、安心して「人」に依存できない人たちは、感激するような支援者に出会うと、その人を「失望させたくない、嫌われたくない」という不安から「バッドニュース」を言えなくなってしまう。「グッドニュース」ばかり口にするうち、疲弊してしまい、それがまた自傷行為につながる。

多くの著者によるもので、「それはちょっとどうなの?」と首をひねるものも一部あり、決して丸ごと名著というものではなかったが、心理援助職の人なら目を通しておいて損はないだろう。

2020年2月3日

知的興奮と潜入捜査のスリリングさを同時に味わえる良書 『FBI美術捜査官』


元FBI捜査官による回想録。

盗まれた美術品を回収するための潜入操作に関するもので、読む前に想像したよりもかなりエキサイティング、スリリングであった。

回収対象の美術品に関する歴史的エピソード、盗まれた状況なども分かりやすく書いてあり、美術に素養のない俺でも興味を失わず読めた。読みながら盗品のイメージが欲しいときは、ときどきGoogle検索。

印象的だったのは、潜入して犯罪者と親密さを築くときの手口が、笑顔、ちょっとした模倣など、臨床で患者さんと関係を築く方法と非常に良く似ていたこと。捜査では捕まえるため、臨床では援助のためではあるが。

知的好奇心も満たされ、犯罪捜査ドキュメントとしても楽しめる、非常に良い本。

2020年1月31日

走ることは、もっと自由で、もっと楽しくて良い!! 『BORN TO RUN 走るために生まれたウルトラランナーVS人類最強の“走る民族" 』


毎朝4kmのランニングを習慣にしている。

小学校のころから走るのが遅くて(マラソンはいつもビリだ)、ランニングやジョギングなんてまったく好きではなかったのに、体型維持と健康のために始めて2年以上になる。

どうせやるのならと自分なりに目標タイムを設定し、自分なりのストイックさを発動させて走る。

その結果、44歳の今が我が人生で最速である。

ところが、「走るの好きなんですか?」と言われると、やはり悩む。趣味かと問われると、そんなものではないという気がする。「苦行」ほど大げさではないにしろ、決して「娯楽」とは言いきれない。ノルマ、みたいなものだろうか。

そんな自分だったが、本書を読んでいくうちに考えが大きく変わった。

走ることは、もっと自由で、もっと楽しくて良いんだ!

たとえば、タイムを測らずに走る日があっても良い。
たとえば、コースを決めずに走る日があっても良い。

本書でベアフット・ランニング(裸足で走る)についても知った。厚底スニーカーで話題になったNIKEだが、実はベアフットに近い薄底の靴も2001年から開発を進めていたらしい。ランナーたちが裸足で練習するのを見て、コーチに理由を尋ねたところ、「そのほうがケガしないから」というのに衝撃を受けたらしい。

高価なシューズより、裸足のほうが、ケガが少ない!?

にわかには信じられない話かもしれないが、実際そうらしい。

いま現在、俺は好きなASICSのGT-2000を愛用しているが、本書を読んでベアフットにも興味が出て、NIKEのフリーランを入手した。これは、まずは太郎の散歩で主に履くようにして、徐々に足を鍛えていく。

さらに、自転車通勤を、週に1-2回はランニングにしてみようと決意した。

こういう感じで、走ることとの向き合いかたに強く影響を与える素晴らしい本だった。

本書で特に印象的だったフレーズを。

人は歳をとったから走らなくなるのではない。
走らなくなるから歳をとるのだ。

走っている人にも、まだ走っていない人にも勧めたい!!

2019年12月25日

ゲーム障害の治療について

ゲーム障害の治療で、「ゲーム時間を減らす」を主軸にすると、思ったようにいかず、治療者も患者さんも家族も辛くなる可能性が高い。

目標を「◯◯(ゲーム以外)の時間を増やす」にすることで、みんなの意識がゲームにとらわれずに済み、目標達成もしやすく、小さな成功を積み重ねていける。

ゲーム障害の治療は全国どこでもまだ手探り状態で、上記もあくまで実際に俺がやっている現状を記したにすぎず、これが長期的に見て最良かどうかは分からないことは、念のため書いておく。

2019年12月6日

ビートたけしさんの「引きこもり対策には『1人部屋禁止法案』」にガッカリ……

ビートたけし 引きこもり対策には「1人部屋禁止法案」

反対である。

「引きこもり対策」としては逆効果で、有害にさえなりうる。

というのも、安心して引きこもれる場所のない子たちは、別の安心できる場所を求め、よりハイリスクなところに引きこもる恐れがあるから。一人部屋をなくせば、ネットで知り合った人の家やネットカフェなど、引きこもる場所が変わるだけだろう。

たけしさんの主張は、「アル中は、酒をなくせばいなくなる」というのと同じ発想だ。ズバッと大胆なことを言っているように見えるかもしれないが、ハッキリ言って、陳腐である。

これくらいは誰もが思いつくアイデアであり、すでにそれに近い実力行使がなされており、そして効果はほとんどない。

たけしさんの切り口はけっこう好きなのだが、そのたけしさんにしてこれである。
「あぁ、引きこもってる人たちって、この程度の認識でしか見られていないんだな」
という参考にはなった。

一人部屋をなくせば引きこもりの問題が解決?

あまりに安易で苦笑すら漏れてしまう。

たけしさんには、

「国が安全な引きこもり施設を作ってあげれば良いじゃねぇか」

くらいは言って欲しかった。

2019年12月5日

ゲーム障害(依存)について、少し自分の頭を整理

ゲーム障害(依存)。

家族がゲームは何時までと決めると、それを守れるか守れないかで家庭内がギスギスし、ときに大喧嘩に発展する。

診察室では本人・家族と話し合い、本人に「やめる時間」を決めてもらう。これは守りやすく、家庭内の紛争が減る。

根本解決ではないが、まず継続治療を目標に。

ちなみに、まずは「始める時間」は決めない。極端な話、5時起床でゲームするのもあり。ゲームのためとはいえ早起き習慣がつくなら良し、くらいに考えてみる。

ゲーム障害は新しい疾患概念で、治療も暗中模索。

患者さんは中高生が多く、本人に「困り感」はない。

いっぽう家族は学校のことが気になり、目に見える成果を早めに欲しい。家族が受診に意味がないと感じると、治療中断してしまうリスクが高まる。

これらを考慮して、バランスよく関わる。

このときに治療者を支えるのは、

「依存症の予後は、どんな治療をするかより、どれだけ長く治療できるかで決まる」

という報告(松本俊彦先生の本などにちょいちょい出てくる)。

「困っていない本人」と「早い成果を求める家族」と関わり続けるためにはどうすれば良いか、を考える。

2019年12月2日

面白くて読み足りない!! 『仮病の見抜きかた』


エピソード、「賢明な読者へ」、エピローグという構成で、10章から成る。
面白くて、だからこそ読み足りなかった。

非常に印象的で、共感できる部分を抜粋。
頻回突診をする患者本人に、「なぜそんな理由で受診するのか」などと訊くのは全くの無駄である。そうではなく「頻回受診をしてしまう」こと自体を症状と捉えるべきである。
医師の誠実さというのは尊いが、診療が患者に届かなければ失敗である。逆に、診療の中断を防ぎ、多少いい加減でも患者に医療が継続的に提供されていれば成功である。
臨床医は、病気を持つ者の人生や人生観に触れられる、相変わらず奇異な職業だなとあらためて思った。

2019年11月29日

タイトルが堅すぎるが、中身は依存症治療に携わるすべての人に読んでみて欲しい良書 『ハームリダクションアプローチ やめさせようとしない依存症治療の実践』


一年半前に読んだ『アルコール依存症治療革命』では、俺の脳内で本当に革命が起こった。
革命家・成瀬先生が新たに出された本、ということで期待して読んだ。
しかし、内容的には『アルコール~』に書かれていたことを薬物・処方薬へと広げたもので、一年半前のような興奮は感じなかった。

これは、少しも残念なことではない。

なぜなら、あの革命がいまなお脳内で生きているということだからだ。

では、人に勧めるなら『アルコール~』とどちらだろうか。
それは人による。
アルコール依存症にだけ関わる人なら前著で良いし、他の依存症にも関心があるなら本書だ。

残念な点を一つあげるならタイトル。
「ハームリダクション」という単語は、依存症に関わる人にはかなり普及しているが、医療者でさえ「なにそれ?」という人はまだまだいるし、たとえ聞いたことがあったとしても、
「あぁ、HIV予防のために、麻薬常習者に注射器を配ったあれね」
くらいの人も多いだろう。
そういう人たちに本書を読ませ、依存症治療への意識を改革する、ということを目的にした場合、このタイトルでは届きにくいのではなかろうか。
『アルコール依存症治療革命』のように、もっとポップに、『依存症、これだけ!』とか、出版社は違うが『ねころんで読める依存症治療』とか、そういう手に取りやすさを重視しても良かったのではなかろうか。

以下、本書で時おりまとめられるポイントを引用。

【依存症に関係する人間関係6つの問題】
  1. 自己評価が低く自分に自信をもてない
  2. 人を信じられない
  3. 本音を言えない
  4. 見捨てられる不安が強い
  5. 孤独でさみしい
  6. 自分を大切にできない
    ※自分は親からさえ受け入れられていない、他人から受け入れられる価値がない、と誤解している。

【依存症患者の背景にみられる具体的な特徴】
  1. 本当は、完璧主義できちんとしなければ気がすまない。
  2. 本当は、柔軟性がなく不器用で自信がない。
  3. 本当は、頑張り屋であり頑張らなければと思っている。
  4. 本当は、根はきわめてまじめである。
  5. 本当は、やさしく人がいい。
  6. 本当は、気が小さい・臆病・人が怖い。
  7. 本当は、恥ずかしがりで寂しがりである。
  8. 本当は、自分は人に受け入れられないと思い込んでいる。
  9. 本当は、自分は人に受け入れられたいと思っている。
  10. 本当は、生きていることがつらくて仕方がない。

【依存症患者への望ましい対応10カ条】
  1. 患者一人ひとりに敬意をもって接する。
  2. 患者と対等の立場にあることを常に自覚する。
  3. 患者の自尊感情を傷つけない。
  4. 患者を選ばない。
  5. 患者をコントロールしようとしない。
  6. 患者にルールを守らせることに囚われすぎない。
  7. 患者との1対1の信頼関係づくりを大切にする。
  8. 患者に過大な期待をせず、長い目で回復を見守る。
  9. 患者に明るく安心できる場を提供する。
  10. 患者の自立を促す関わりを心がける。

【「ようこそ外来」は「ハームリダクション外来」である】
  1. 外来に来たこと自体をすべてのスタッフで評価・歓迎する。
  2. 覚せい剤使用については通報しない保証をする。
  3. 本人が問題に感じていることを聞き取る。
  4. 本人がどうしたいかに焦点をあてる。
  5. これまでに起きた問題点を整理し解決案を提示する。
  6. 依存症について説明し適時必要な情報提供をする。
  7. 外来を正直な思いを安心して話せる場とする。
  8. 外来で治療を続けられるように最大限配慮する。
  9. 断酒・断薬を強要しない。再飲酒・再使用を責めない。
  10. 患者の困っていることに焦点を当てて関わる。
  11. ※患者の人権を尊重して信頼関係を築くことを優先する。

【依存症治療「7つの法則」】
  1. 依存症は「病気」であると理解できれば治療はうまくいく.
  2. 治療を困難にしている最大の原因は,治療者の患者に対する陰性感情である.
  3. 回復者に会い回復を信じられると,治療者のスタンスは変わる.
  4. 依存症患者を理解するために「6つの特徴」を覚えておく.
  5. 依存症患者の飲酒・薬物使用は,生きにくさを抱えた人の「孤独な自己治療」
  6. である.
  7. 断酒・断薬を強要せず再飲酒・再使用を責めなければ,よい治療者になれる。
  8. ※断酒・断薬の有無に囚われず信頼関係を築いていくことが治療のコツである。

【ハームリダクション臨床の心得10カ条】
  1. 患者中心のスタンスを常に維持する。
  2. 患者に敬意をもって誠実に対応する。
  3. 患者との信頼関係づくりを優先する。
  4. 患者の現状をそのまま肯定的に受け入れる。
  5. 患者の問題行動は症状の影響が大きいことを理解する。
  6. 治療目標を断酒・断薬に焦点づけしない。
  7. 患者の飲酒・薬物使用を責めずに受け入れる。
  8. 患者が困っていることに焦点づけする。
  9. 患者の飲酒・薬物使用に囚われず患者の害の軽減を目的とする。
  10. 患者に陰性感情をもたずに寄り添っていく。

2019年11月22日

日本初の「処方薬依存をテーマにした本」 『処方薬依存症の理解と対処法』


日本初の「処方薬依存をテーマにした本」。

いや、実際にはタイトルに「処方薬依存」を冠したものもあるのだが、中身は精神医療批判に近く、純粋に「処方薬依存」を扱っているとは言い難い。

本書はアメリカのジャーナリストによるもので、筆者自身が弟を処方薬依存で喪っている。

内容はかなり中立的、包括的、支持的であったが、治療者にとっては専門的な部分が物足りず、当事者にとっては分量が多すぎる感があり、なんとなく「帯に短したすきに長し」という印象だった。

翻訳も少々ぎこちない。

2019年11月18日

復刊か電子書籍化が強く望まれる良書! 『依存症から回復した大統領夫人』


アメリカのフォード大統領夫人ベティはアルコール依存症だった。そして、処方薬依存でもあった。彼女は自らの依存症を克服し、全国民にカミングアウトし、さらには依存症治療施設を創りあげ、多くの依存症者とその家族を救ったのである。

Wikipediaによると、米国では「ベティ・フォード」が依存症治療施設をさす一般名詞として普及し、「ベティ・フォードに行くべきだ」というのは、ベティ・フォード・センターではなく「依存症治療施設に行くべき」の意味になるらしい。

本書は彼女の回復記であると同時に、センター立ち上げの記録でもある。

非常に優れた本だった。

2019年11月11日

「回復」「解放」への提案 『もちきれない荷物をかかえたあなたへ アダルト・チャイルド、そして摂食障害・依存症・性的虐待……いくつもの課題をのりこえる生き方の秘訣」


アルコール依存症の親を持つ人たちへの援助を任されたクラウディア・ブラック。ところが、援助を受ける人たちの年齢層はバラバラで、小さな子どもから青少年、中高年の人たちまでいる。幅広い年齢の人たちに、同一の援助を行なっても効果的ではない。

そこで彼女は、被援助者を3つのグループに分けた。

12歳までのヤング・チャイルド・グループ。
13歳から19歳までのティーンエイジ・グループ。
20歳以上のアダルト・チャイルド・グループ。

そして、この「アダルト・チャイルド」(AC)という言葉がアメリカ、そして日本で爆発的に広まることになる。

もともとはアルコール依存症家族で育って成人した人の意味だったが、現在では日本だけでなくアメリカでも「機能不全家族で育った人」というように拡大されている。

ブラック自身は、このアダルト・チャイルドという言葉の流行と拡大に対して、ちょっと危惧を抱いていたそうだ。

アダルト・チャイルドは病名でも医学用語でもない。

機能不全家庭で育ったがゆえの問題から回復しようと取り組んでいる人、援助を受けている人のことである。決して、「自分はアダルト・チャイルドだから」という言い訳のための言葉ではない。重い荷物をおろすための気づきを与えてくれる言葉なのだ。

本書では、そんなアダルト・チャイルドがどうやって荷物をおろしていけば良いのかのヒントをたくさん提示してくれている。

治療者としても回復者としてもためになる良い本であった。

2019年11月8日

誰からも記憶されない女性が、生活改善アプリに毒されていくディストピアでたくましく生き抜く物語 『ホープは突然現れる』


主人公ホープは、誰からも記憶されない特殊体質を16歳で発現してしまう。両親や友人から徐々に忘れられ、人と会っても数分で忘れ去られてしまう。

そんな彼女の生きる術は、泥棒。

舞台は「パーフェクション」というスマホアプリが広まりつつある世界。この生活改善アプリによって画一化されつつある人々の暮らしぶりは、どことなくオーウェルの『1984年』で描かれたディストピアを彷彿とさせる。オーウェルが描いた「ビッグ・ブラザー」の役割を、本作では「パーフェクション」というアプリが担っている。

作者クレア・ノースの第一作『ハリー・オーガスト、15回目の人生』は心に残る名作だったが、こちらも「世界幻想文学大賞」を受賞したのが頷ける素晴らしい作品だった。

余談だが、この小説の映画化は絶対不可能だろう。「誰からも記憶されない」ということを映像では表現できないから。小説でしか描けない物語という点でも価値ある作品。

2019年11月7日

田代まさしさん逮捕へのコメントを見て思うこと

田代まさしさん逮捕で、普段かなり見識ある発言をしている人でも「薬物こわい」にフォーカスを当てすぎていて残念である。というのも、「こわい」にとらわれすぎると、「手を出したら終わり」になるし、それは容易に「そんなものに手を出した奴が悪い」に変わってしまう。

実際には、ハマらない人も、回復する人もいる。
意外かもしれないが、
「覚せい剤はしばらくやったことあるが、合わなかった」
と自然にやめてしまい、依存症に至らずに済んだという人は少なくない。
決して「手を出したら終わり」ではないのだ。酒やタバコと同じで、悪い意味での相性がある。相性が合うと、すんなり入って、そこから抜け出せなくなる。

本当に「こわい」のは薬物ではなく、田代さんが再使用するに至った個人的な問題や環境、入手経路が身近にあるという社会的な背景などのほうだし、もちろん依存症そのものが「こわい病気」である。

たとえば、糖尿病はこわいが、糖はこわくない。高血圧や動脈硬化はこわいが、塩分や脂質はこわいものではない。
もちろん違法か違法でないかの違いはあるし、それは社会的には重要なところだが、医療において「病気」として考えた場合、こわいのは「依存症」であって「薬物」ではない。

それから、「反省して欲しい」というコメントも見られるが、田代さんに対して世間が反省を求める必要などない。当たり前だが、使用した本人が最も後悔しているし、そもそも依存症は「反省で治る病気」ではない。
いくら反省しても再発は起こりえるし、反省なんてしなくとも回復することだってある。

これは、医療者であれば、臨床現場でのヒヤリハットやアクシデントに置き換えてみると分かりやすい。

ミスは起こりうる。だから対策を練る。

反省していないから、反省が足りないから、ミスが起こるわけではない。もっと反省すればミスが減るというわけでもない。
依存症も、反省よりは対策が重要かつ有効なのだ。


余談ではあるが、田代まさしさんがいた「RATS & STAR」には「ドブネズミからスターになる」という想いがあったそうだ。

鈴木雅之率いる不良グループがドブネズミからスターを目指したのに対し、法政大学に進学した甲本ヒロトは「リンダリンダ」で「ドブネズミみたいに美しくなりたい」と歌い上げた。

ドブネズミにまつわる二つのグループの対比が、なんだか美しい。

ちなみに、「RATS & STAR」は、逆から読んでも「RATS & STAR」である。

2019年11月1日

アンリミテッドで読める秀逸な怪談3冊 『寒気草』『崩怪』『坑怪』


Kindleアンリミテッドに『寒気草』という本があったので読んでみたところ、これが非常に面白かった。怪談はこれまでもたくさん見て聞いて読んできたつもりだったが、まだまだいろいろなレパートリーがあるものだなと感心した。いかにも日本的な怪談が多く、背筋がゾッとするようなものもいくつかあった。

作者は神沼三平太という怪談作家。この人の文章は日本語がきちんとしていて、怪談の導入、展開、オチがリズムよくて間延びせず、真実味と虚構感のバランスもとれていて、とてもクオリティが高い。読みやすくて、ついついたくさん読んでしまい、気づくと、普段は気にならないあちこちの暗闇が怖くなる。

とはいえ、すべての本が秀逸というわけにはいかず、何冊か損切りしたものもある。そんななかで上記3冊はオススメできる。

2019年10月29日

怖さはアップしたものの…… 『奇奇奇譚編集部 幽霊取材は命がけ』


第1作目に比べると、怖さはアップしたように感じる。しかし、全体的には文章がブツ切りになっているところが多々あり、読書のリズムを削いでしまっている。一例をあげると、
そう、これが彼の仕事のひとつなんだ。ぼくを。とことんまで。怖い目にあわせるのが。
この小説は主人公の一人称視点であるため、彼の思考をそのまま文字にしたとすればこうなるのかもしれない。しかし、「人の心の中身を文字で読むこと」と、「人の心の中身を描いた小説を読む」のとでは違うはずだ。そして、一般的に、読書する人は後者のつもりで本を読んでいるのではなかろうか。

このプツリ、プツリと途切れる文章で読むリズムが削がれてしまい、内容は面白いのに入り込むことができなくて残念だった。完結編である第3作目に期待する。

2019年10月24日

援助職を長く続けるために必要なこと『悲しみにおしつぶされないために 対人援助職のグリーフケア入門』


対人援助職に真面目に取り組んでいる人は、たいてい自分の神経をすり減らす経験をしている。どんなに周りからはのほほんとしているように見える人であっても、実際には多かれ少なかれ、精神的に疲弊したことがあるはずだ。

ある人はそれで援助職を辞するかもしれない。また、ある人は仕事を続けるものの、援助対象者とは極端に距離をとることで自らの精神衛生を保つという方法をとるかもしれない。いずれにしろ、援助される側としては好ましくない。

適切な援助を、長期にわたって安定して提供するためには、援助者が振り回されたり押しつぶされたりしてはいけない。そのためにどうすれば良いか。以下の引用を読んで、ハッとする人も多いのではなかろうか。
援助職に就いている人たちは、人のために働くのは得意ですが、自分のためのケアは不得意です。
援助職の専門家は、自分自身にはどういう問題・課題があり、自分がどういう生育歴をもっているか、そして自分のどういう問題が未解決になっているのかということを、ちゃんと知っておくことが必要 
自分の問題を全部解決してからでなければ援助者になってはいけない、というわけではありません。問題はあっていいのですけれども、自分にはどういう問題・課題があって、そのために自分は今どんな取り組みをしている……、ということをふまえて仕事をすればいい
 みなさんのいい仕事で、たくさんの人が笑顔を取り戻しますように。

2019年10月21日

仕事にも子育てにも活かせそうな「伝えかた」の本 『人を動かす伝え方 動きたくなる56の伝え方』


中谷彰宏の本は、シンプル、読みやすくて分かりやすい、そして「行動に移しやすい」。

本書も従来通りの良書。

「丁寧すぎると伝わらない。詳しすぎる道案内は、かえってわからなくなります」というのは、日々の診療でも感じることで、大いに同感。例として出されているのが、道案内のとき目印にローソンがある場合。案内は、

「ローソンの角を曲がる」

だけで良い。

「ファミマでは曲がっちゃダメ」

は言わない。ところが、親切な人ほど説明が丁寧になり、余計な情報(「ファミマ」)が入り込み、間違う原因になってしまう。

それから、本当に伝えようと思ったら、少し乱暴な言葉を用いるというのも頷けた。
「逃げてください」ではなく、「逃げろ」。
さらに言えば、逃げている人が「逃げろ」と言うのが一番伝わる。
震災や飛行機事故などの緊急事態では「逃げろ」「荷物を持つな」という命令形が必要かつ効果的であることは、もっと周知していきたい。

また、「伝えるためには、言いきること」。具体例として、「七人の侍」は強そうだが、「七、八人の侍」になると弱そう、という面白い例が出してあり、こういうところがさすがだなぁと感心する。

本の表紙にあるように、「早くしなさい」より「タッタカ・タッタカ」といったオノマトペを使うほうが効果的というのは、仕事だけでなく子育てでも活きそうだ。というか、本書全体が子育てにも活かせそうな内容盛りだくさんであった。